1988年12月、年の瀬を迎えた頃、4人のミュージシャンが渋谷のロイヤルホストに集まって、バンド名を考えていた。紙ナプキンに書かれたその名前は、そう「Mr.Children」だった。
1989年昭和64年が到来した。
昭和64年は7日しかなかった。激動の昭和が終わり、平成がスタートする。Mr.Childrenは平成とともに、その音楽をスタートさせた。
「くるみ」PVに見られるように、ミスチルの転回点の一つは2004年『シフクノオト』だ。
「くるみ」が「女性名くるみ」と「来未」いう二つの意味を併せ持ち、また、『シフクノオト』自体が、「至福の音」と「私服の音」という二つの意味を持つことを考えれば、世界に対する二つの構え、見た目の一般的な構えと同時に、その背後にあるもう一つの構えという二段の構え・二つの視線によって、世界を把握し始める。
私が掻い摘んでしか聞いていなかったミスチルの音楽を、真正面から聴き始めたのは『シフクノオト』からだった。
「タガタメ」「Any」「HERO」「Paddle」「くるみ」などの名曲が並び立ち、何度聴いても、新しい発見がある。
- アーティスト: Mr.Children,小林武史
- 出版社/メーカー: トイズファクトリー
- 発売日: 2004/04/07
- メディア: CD
- 購入: 3人 クリック: 76回
- この商品を含むブログ (353件) を見る
ここに描かれているのは、等身大の私たち。「私服」を着た私たち。身近な風景・心情を、詩的な言葉とメロディーに乗せて歌い上げる音楽だ。
等身大という点では、初期のミスチルから変化していないが、単調な恋愛ドラマのごとき歌詞から脱皮し、『深海』から深みのある音楽へと向かったミスチルは、『シフクノオト』に至って、自分たちが目指していた立ち位置を改めて自覚する。
そのことを示しているのが、「くるみ」のPVである。
Mr.ADULTSではなく、Mr.Childrenという、並立しない組み合わせの持つ意味。
[MV] Mr. Children _ くるみ (Kurumi) on Vimeo
今や大御所となったミスチルだが、apbankなどを通じて、音楽仲間の連帯を強め、社会的な実践として音楽活動を行っている。
例えばFMキャンペーンソング「春の歌」は、出会いと別れの季節である春を歌い上げ、若い世代にメッセージを送る。
春風 木漏れ日 さくら舞い散る道
いくつもの出会いと別れ
握りしめて歩こう
未だ夢は消えず 掴んでもいない
一度は枯れた花でも また芽を出せるはず
遥か遠くに住む 君に届くように
私には、何か困難にぶつかった時、思い出し、参照する人がいる。高校時代の先輩である。彼は、どんな困難に遭遇しても必ずそれを乗り越えてきたし、そもそもスケールの大きなことを人の力によって成し遂げてしまう、とんでもない人であった。
そうしたことができるのは、今風に言えば、彼の卓越した人間力であった。
でも、もう彼はこの世にはいない。私は彼の衣鉢を少しでも受け継いで生きたいと思う。
Mr.Childrenの音楽は、ただ聞いていて気持ちいいというだけではない。私たち世代の心の襞に血液を流し込み、生きる力・生きる勇気を与えてくれる。彼らの音楽は血液のようなもの。
私が心の拠り所にしてきた人とはまた異なるが、 ミスチルの音楽も私の中に血液となって日々流れ続けている。