ヘミングウェイの小説は、中学生の頃、訳も分からずに『武器よさらば』や『陽はまた昇る』などを、何冊か手にとって読んだことがあった。
けれど、大人になってヘミングウェイのイメージが、私とは正反対のいわゆる男性至上主義のごとく見えたし、世間もそう評価していたから、近づこうと思わなかった。
半年ほど前、書店で『移動祝祭日』と名付けられたヘミングウェイの文庫が目に入った。
こんな小説あったっけ?と思ってパラパラとめくったら、小説ではなく若い時代の回顧録だった。表紙の写真もヘミングウェイとはイメージの異なるもので、それ以来、ずっと気になっていた。
漸く最近購入して、訳者の解説を読んで見たのだが、その解説がすごかった。一体、この訳者は何者なんだと思った。
文章の上手さもさることながら、ヘミングウェイに対する眼差しの鋭さ、その洞察力の鋭さが只者ではない。
- 作者: アーネストヘミングウェイ,Ernest Hemingway,高見浩
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2009/01/28
- メディア: 文庫
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ヘミングウェイの小説は、丁寧に目を凝らして読まないと正確に読解することができないし、表現上の意を汲むだけでは、読み終えて見て、一体この物語はなんなのだろうと首を傾げることもある。
これは今回、数篇読んで見た感想だけれど、こうした疑問点を、上述の訳者は解説で全編ではないけれど、どう読めばいいのかを見事に説明してくれる。
われらの時代・男だけの世界 (新潮文庫―ヘミングウェイ全短編)
- 作者: アーネストヘミングウェイ,Ernest Hemingway,高見浩
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1995/10/01
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ヘミングウェイが向ける女性の心情への共感には、今までのヘミングウェイ像はない。男性原理で動いていると見られていた彼の姿は微塵もない。
たしかなのは、彼がその異様に鋭く、しかもしなやかな感性のすべてをあげて二十世紀という時代と対峙していたという事実である。そこから産み落とされた実に多様な作品が、いまわれわれの前には残されている。
それまでの評価に捉われず、いかに自分の目と頭で作品を読むべきか。