新聞の広告を見たとき、読んでみたいと思った。
沢木耕太郎の『作家との遭遇』という作家論集に収められている卒論のことである。
読んでみて分かったことは、大学4年生ですでに沢木耕太郎は沢木耕太郎であったということだった。
そして、見事な文章を通して情熱的な思いが綴られていることだった。
沢木は経済学部の学生だった。だけど、卒論のテーマはカミュだった。ふざけていると言えばふざけている。
経済への関心が薄れ、自分にとってその時の本質的な問題に取り組んだと言えば聞こえはいいが、悪く言えば、勝手すぎるということになるだろう。
しかし、彼が非凡なのは、この卒論を読めば分かるが、沢木は本当に真面目にカミュに魅せられて、この卒論に取り組んだということである。
普通の学生に、このような魂のある作品は書けない。
卒論一つ見れば、その人の今後の生き様も窺える。たった一行の文章に込められた情熱は、その人物の人となりを代表している。