naranjaとはスペイン語でオレンジのことである。この言葉にはアラビア語の響きが木霊している。
スペイン・グラナダにあるアランブラ宮殿に憧れたのは、そこにスペインとイスラームの混淆が見られたからだ。レコンキスタによってイベリア半島のキリスト教化が再び成し遂げられたが、naranja、azukar、algodonといった言葉、コルドバのメスキータには、ここが嘗てアラブの地であった痕跡が残されている。
アラビア語もスペイン語も、灰汁の強い言葉である。そうやすやすと他の言葉の色に染まったりしない力強さがある。スペイン語で書かれた現代ラテンアメリカ文学は、スペイン語がラテンアメリカという新大陸に根を下ろして成長し作り出した百花繚乱である。
ガルシア・マルケスの文章には、まさに巨大な壁画のように少しの隙間もなく、言葉という油の絵の具が塗り込められ、ドノソの作品には現実と夢と幻が交錯する白昼夢の世界が描かれている。
すべての人間は
狼が吠え、夜のみだらな鳥が鳴く
騒然たる森を
心に持っている
ドノソ『夜のみだらな鳥』巻頭にあるヘンリー・ジェイムズのエピグラフ
新しい文学、新しい世界の創造は、一朝一夕には成し遂げられない。ラテンアメリカ文学には、アラビアの遠い記憶が木霊している。