1970年十一月二十五日のあの奇妙な午後を、僕は今でもはっきりと覚えている。強い雨に叩き落とされた銀杏の葉が、雑木林にはさまれた小径を干上がった川のように黄色く染めていた。
・・・
「本当にしゃべりたいことは、うまくしゃべれないものなのね。そう思わない?」
「わからないな」と僕は言った。
ばたばたという音を立てて地面から二羽の鳥がとびたち、雲ひとつない空に吸い込まれるように消えていった。
1970年11月25日、三島由紀夫が切腹し、村上春樹はその日の出来事を『羊をめぐる冒険』の冒頭に据えた。
おそらく、この日から何かが変化したのだと思う。
昭和20年に戦争が終わり、戦後の荒波を突っ走ってきた日本社会に、この日、目に見える形で、日本社会の変貌が告げられた。
理想を大きく口にし、革命を唱える時代は過ぎ去った。
我々は、話したいことをそのまま話すだけでは通じない世界へと突入した。
その世界では、嘘もまた真実を告げ知らせる媒体となった。
そして、2016年11月23日、RADWIMPSが『人間開花』をリリースし、「前前前世」でこう歌う。
前前前世から僕は 君を探しはじめたよ
そのぶきっちょな笑い方をめがけて やってきたんだよ
時代は、現実の世界を飛び越え、過去の、遠い過去の、迷信のような前世の物語を信じ始める。
現実とは切断された遠い過去に真実を見る時代。
革命の時代、嘘の時代、そして幻の時代へ。
現実が、夢のような、幻のような時代。