最相葉月の『セラピスト』が文庫化されたので、読んでいます。
最相さんの本は、いつも魅力あるテーマについて書かれていて(星新一、絶対音感、青いバラなど)、その考察力にいつも感心させられています。
『セラピスト』には、箱庭療法やバウムテストなどの心理療法が登場しますが、画用紙に木(Baum-バウム:ドイツ語で木の意味)を描いてもらうバウムテストのように、心理療法では絵が重要なシグナルとして機能します。
この絵というもの(文字、言葉ではなく)が重要なのは、言葉が一律に意味を特定するのに対して、絵は解釈に幅がある点にあります。
「言葉だけでは表現できないものがあった場合、言葉にしてしまうことで削ぎ落とされてしまう。言葉にできないもののほうが大事かもしれないのに、言葉になったことだけが注目されて、あとは置き去りにされてしまう」
この文章は、箱庭療法について述べられた箇所ですが、バウムテストについても勿論当てはまります。
つまり、ここでは言葉は暴力の一つだということが述べられていて、言葉が特定化しなかった空白地帯にこそ、患者が言いたかったことがあるかもしれないし、そこに注目するべきだ、ということです。
患者の心の発掘作業を行う心理療法は、だから、言葉以外を使用するバウムテストや箱庭療法を用いることで、患者の繊細で微妙な心の襞を分析していくのです。
私も母親が躁鬱症になったことがあり、人間の精神・心が普通でなくなる状態を目の当たりにしているのですが、人間の心というものは、脆さを抱えているものだと思います。
心という領域は、もう一つ分かりにくいし、合理的な説明を拒む傾向があると思いますが、心についての研究が世間で役立つように流布されていけば、いいのになと思ったりします。
難しいですね、人の心は、、、。