長崎の旅の途中で、どうした訳か、突然バックストリート・ボーイズ「shape of my heart」を口ずさんでいた。
帰宅してから、ふと、そう言えば、さだまさしって長崎出身だったなと思った。
シングルレコード「雨やどり」のB面は「絵はがき坂」である。
「絵はがき坂」の舞台はオランダ坂の活水地区辺りである。
あなたはためらいがちに 何度も言いあぐねて
どうしてそんなこと ああ迷うのですか
ひとりで生きていける程 お互い大人じゃないし
それにしてもあなたの時計 ああ 進み過ぎました
ここに描かれているのは、男女のすれ違い・男女の行動原理の違いであり、さだまさしは男女の微妙な機微を鋭く、ユーモラスに切り取っている。
私にとってさだまさしは、クラシック音楽しか聞いていなかった小中の頃、唯一聞いていたポップス歌手だった。
マイナーメロディー・高音の歌声・日常を観察した詩のごとき歌詞といった他の歌手には見られない独自の世界を築き上げ、といって孤高の存在という雰囲気でもなく、その辺にいる話好きなお兄ちゃんという不思議な存在で、隠れさだファンはたくさんいたと思う。
子供の頃、話を聞くように傾聴していたさだまさしの音楽に、そのあと長い間、触れることがほとんどなかった。不思議といえば不思議である。
だけど、忘れていたさだまさしの音楽を、偶然の長崎行きで、思い出した。
さだまさしに先立って、バックストリート・ボーイズが意識に上り、「shape of my heart」を突然口ずさんでいたのは、次のような連鎖だと思う。
長崎旅行に旅立つ1週間前、その前哨戦のごとき東京旅行に行き、東京ドーム近くの水道橋に宿泊した。
東京で暮らしていた20年以上の間、仕事帰りの中央線や総武線で、水道橋駅から大量に乗り込んでくる東京ドームコンサート帰りの客の姿に、何度となく出くわした。
あるときは、Mr.Childrenであったり、SMAPであったりした。大学生ぐらいの男女三人組が乗り込んできて、ミスチルの「未来」に感動したという話し声を聞いたこともあった。
その中で、いつになく大勢の人が乗り込んできた時があった。溢れんばかりの人だかりで、一体どの歌手なのかと思ったのが、バックストリート・ボーイズだった。
東京・水道橋への旅によって意識下に醸成され始めたバックストリート・ボーイズの東京ドームでの記憶が、それに続く長崎への旅によって、一気に呼び覚まされ、「shape of my heart」を口ずさむことになったのだと思う。
どちらが始発・終着はないだろうが、冒頭の写真は港に近い方のオランダ坂石標であり、上の写真は山の手方面のオランダ坂石標である。
それはまだ 私が神様を信じなかった頃
九月のとある木曜日に 雨が降りまして
こんな日に 素敵な彼が現れないかと
思ったところへ あなたが雨やどり
さだまさしの歌詞は、日常に普通に見られるさり気ない一コマを切り取って、そこに人の機微を見出す。
この「雨やどり」もそうだけれど、女性の視線から見た風景・心情が歌われていたり、社会の弱者や声を上げられない人々の声、また世界の不条理が、さだの歌には切り刻まれている。
人間て悲しいね だってみんなやさしい
それが傷つけあって かばいあって
旅は、未知の領域への着地という面だけでなく、既知の忘却された領域への着地という面も併せ持っている。