知り合いに、絵のとても上手い人がいる。
彼によると、物を見れば、そのイメージが頭に即座に浮かび、それを光が照らし出す物体として捉えて、紙に描き出すのだという。
彼は字も上手であり、字もイメージとして捉えて書き記すのだという。
私など絵心のないものは、そうしたイメージが心に浮かばないし、字も写真のようにイメージとして写ってはこない。
この小説では、まさに世界をどんな風に認識するのか、言葉ではなく、音でもなく、イメージとして認識するのはどういうことなのか、というのが、全編を通じて展開されるテーマである。
この小説で、村上春樹は、世界をイメージとして認識することがどういったことなのかを、言葉で追求しようとしている。
言葉の独裁、言葉の暴力。
全てを言葉で説明することができると考えるのは、狭小な考え方である。
音で世界を表現する方法、イメージで世界を表現する方法をも視野に入れれば、この世界はもっと違った貌を見せてくれる。