『君の名は。』のキーワードは黄昏(誰そ彼)だ。黄昏時は、物理的に人と人の見分けが単につきにくくなるというだけでなく、古代世界においては、現代とは異なる時間意識が下地にあった。
古代日本においては、昼と夜は、連続していく時間の中に収まる二つの時間帯ではなかった。昼と夜は、時間の概念ではなく、空間的な概念としてあった。つまり、昼という世界があり、一方に夜という、昼とは異質の断絶した世界があった。また、過去と現在も異質な世界として断絶していた。
だから、古代日本においては、黄昏時や黎明時は、異質な世界への移行時ということを意味し、極めて危うい不安定な時間帯であった。
『君の名は。』は、こうした学術的な裏付けに基づいているわけではないが、古代の時間感覚で言うところの、断絶した二つの時間帯である過去と現在に生きる三葉と瀧が、彗星が走り出す黄昏時に、少しの間だけ空間的に出会うという奇跡を起こす。
ラストシーンで、一瞬にして相手に気づく二人。名前は分からないが相手を知っている。過去の世界と現在の世界が統合される。
同じ世界で交わされる感動的な最後の言葉。「君の名は?」