クリストファー・ノーランは蝙蝠の世界を描いた。空高く舞い上がり、華麗に飛び回る蝙蝠の姿は、ゴッサムシティの守護神が蝙蝠であることを告げている。
ゴードン率いるゴッサムのポリスが地上でジョーカーを狙い撃つ。夜の空にはバットマンがいて、地上に降り立ちバットモービルを乗り回す。彼の様々なガジェットは、ジョーカーの攻撃をかわし、ジョーカーを追い詰める。
ヒース・レジャーはジョーカーを演じ切り、アカデミー賞を受賞し、そして死んでいった。彼はジョーカーを迫真の演技で演じ切ることで、何を見たのだろう。デントことツーフェイスはどうして悪に染まってしまったのだろう。彼は蝙蝠の味方でいるべきだった。
大空高く蝙蝠が飛び立つ時、悪もまたゴッサムに蔓延している。ウェイン産業が健在であるほど、蝙蝠は成長する。蝙蝠が去ってしまっても、次の後継者が控えている。
クリストファー・ノーランが描く蝙蝠の世界は、ゴージャスで、でも汚れた世界である。起伏に富んだ物語は、悪を描き、善を描き、裁くべきものを裁けない葛藤を描き、明日の希望を描き、明日の絶望を描く。この世界にはヒーローがいるのではない。一人の蝙蝠がいるだけである。