昔、檀ふみの自宅近くに住んでいたことがあった。だから、駅前のスーパーに買い物に行くと、たまに檀さんの姿を見かけることがあった。背が高く、遠くの方にいてもすぐに檀さんだと分かる、他の人とは違うオーラがあった。
檀さんは父親の檀一雄が大好きだったらしい。一般的に見れば、女狂いのような、家庭を顧みない火宅の人・檀一雄は、娘から目の敵にされていたのではと思われがちである。
父が嫌いだったわけではない。父は大好きだった。しかし父がいるのは「非日常」だった。母と子供だけの気のおけない日常生活からは遠く隔たっている。父は愉快な人だったし愉快を好む人でもあった。しかし子供にとってそれはいつも緊張をはらんだ「愉快」だったのである。
(檀ふみ『父の縁側、私の書斎』)
私は世間と言われているものとは少しずれた場所に、分かる人にしか分からない地上から少し浮いた空間があるように思える。地上にべったり降りてしまったら、その人は壊れてしまうかもしれない。だから少し浮いた空間に身を置きながら暮らしているのだろうと思う。